バーミンガムは、存命中は、イギリスを中心に幅広く読まれていたが、死後はほとんど読まれることがなくなった。死後は、長い間、『スペインの黄金』、『ジョン・リーガン将軍』、『アルスターの赤い手』The Red Hand of Ulster (1912) 等が散発的に再版されるに過ぎなかったが、ここ数年の間に幾つかの出版社がバーミンガムの作品を数多く再版し始め、またインターネット通販のアマゾン (http://www.amazon.com) 等で絶版作品も入手可能になっている。
1950年代の前半、トリニティ・カレッジ・ダブリンのR.B.D.フレンチ (R.B.D. French) がバーミンガムの作品の価値を認め、研究を始めた。バーミンガムの次女であるアルテア・ハネイ女史が、バーミンガムが数多くの人物たちとやりとりした手紙、彼が書いた雑文、彼について書かれた新聞記事、彼の家族写真等をダブリン大学トリニティ校図書館に寄贈し、それらをフレンチが整理し、後進の研究のために道を整えた。フレンチ自身も、バーミンガムに関して示唆的な論文やエッセイを幾つか発表し、恐らくは1冊の研究批評書を出版したいという望みを持っていたと思われるが、志半ばにして他界した。1959年にはクイーンズ大学ベルファスト校の学生がバーミンガムに関する修士論文を、1966年にはトリニティ・カレッジ・ダブリンの学生が博士論文を書いた。1989年にロイ・フォスター Roy Foster が『アイルランド、1600年から1972年』Ireland 1600-1972 を出版し、「アイルランド歴史修正論」を提唱した。これはナショナリズムの偏狭性・排他性を批判し、ユニオニズムの正当性、すなわち北アイルランドの存在を認めるものであった。フォスターがナショナリズムの偏狭性・排他性の一例として挙げたのが、『煮えたぎる鍋』と『ハイヤシンス』の出版によってバーミンガムがゲーリック・リーグ内部で糾弾され、幹部役員を退いた出来事であった。このフォスターの指摘を巡って、正しいか間違っているか、ナショナリズムは偏狭で排他的であるか否かという論争が巻き起こった。この論争は、バーミンガムのこの2冊の小説が今日の北アイルランド問題を考える上で重要な作品であることを示している。
『スペインの黄金』を機にバーミンガムはユーモア小説に転向し、数多くの作品を残したが、それらは深い意味のない軽いタッチのコメディと見なされるケースが多い。そして、1913年の『ジョン・リーガン将軍』までの初期作品の方がすぐれていて、後期の作品は価値が低いと見なされている。バーミンガムは生涯を通して、敬虔で、信仰心の深いキリスト教徒であった。彼のユーモア小説は、キリスト教の愛と寛容の精神に基づいて、全ての人間の融和を願うもので、ただ単なるコメディを超えた深い意味を持っている。そして、対イギリス独立戦争の激化、ふたつの世界大戦を経験しながら書かれた彼の後期の小説は、人間同士の融和に対するよりいっそう強い願望と、その融和を成し遂げるために必要不可欠なユーモア精神を呈示しており、初期の作品に匹敵する価値を備えている。
今後は、さらにバーミンガムの小説を読み進め、そのうちの幾つかを翻訳出版し、そしてR.B.D.フレンチの遺志を継いで1冊の批評研究書を出版することによって、バーミンガムの価値を世間一般に少しでも広めることができれば幸いである。
I would like to express my thanks to The Board of Trinity College Dublin for permitting me to reproduce six photos and one newspaper article from the Papers of JO. Hannay reserved in the Manuscripts and Archives Research Library of the College.
<< BACK |